hunting 狩猟とは(第十八話)

野獣相手の謀とは

おかしい? 死角に成ったこの下段を
右にと駆け抜けて濃密な気配は消えた
先日の猟では今立つ 大きく抉れた
クレーター状に掘れる谷の詰りにて
308口径の一撃により 長い逃走劇は
終止符を打った 奴等此のルート辿りの
逃走に危険を察し 避けてしまったか?
こんな当て外れさえ 新たな模索には
良く有る事で 緊張解き腰を下ろすと
この谷裏山で既に展開中の巻き狩りの
状況へイヤホン越しに聞き耳を立てる

静かだ。。
遥か山裾のハイウエイを行き交ってる
車の音に野鳥の囀り 頭上では先刻から
カケスが侵入者を咎め警告してるのか?
盛んに騒ぎたて煩いだけだ

見通し利く森の中
ん? 今まで騒いでたカケスが急に鳴き止んだではないか 何者かの接近を知らせるのか
此処まで駆け下った斜面上方に視線を遣るも 良く枝払いされ疎らな森は尾根まで見通せるが
なんら生き物の痕跡は感じられない 気のせいだったのか?  遅い朝日が山合いから出て
尾根越しに差込一抱え程の針葉樹上半分を照らし出してる ・・ゆらり・・ 立ち木に影が動いた
其の横其の先にも続いていく。。 静かに光の差し込む方角に視線を渡す 何の姿も見えない
下生えの草木がそんな揺れ方をしたのだろうか? 其の時又影が動いた もう間違いない!
いつの間にか左手の尾根裏から姿を現した大柄の鹿は 盛んに首と耳を立て警戒し安全を
確認している うっ?まだ後に続いて来るのか その尾根上で群れは止った様だ 充分に撃ち
掛けれる距離では有るのだが 安土のバックストップの無い尾根越しのライフルによる発砲は
控えねばなるまい 臭線を辿って犬が追いつくか 勢子の動きに連動しこの谷を下る逃走行に
移るかもしれない其の可能性の確立を計算し出す その瞬間まで奴等に存在を気取られ訳に
行かない そうこうしてる内に次々後続が尾根上に姿を現し 視認でも数頭が確認出来だした
トップの警戒が他人事の様に後続の若い鹿は寛ぎ餌を食んでいる ここに人がそれも奴等に
とって天敵の猟師が居るなど判断基準の欠片もありえないのかもしれない 気付いたら奴等
一瞬で尾根裏へ姿を消す 僅かに残る発砲のチャンスを失ってしまう どうにもこうにも動けない
目線だけでシュルエットを数えた 尾根上にずらり6頭の鹿が並んでいる 誰か何か均衡を破る
状況の変化を呉れ 相互の緊張に気圧されたか野鳥は黙りこくって居る そんな状態を訝しげに
警戒してるのだろう 相変わらずトップの大柄鹿はきょろきょろしている 双方固まった侭にの
時間だけが経過していく。。。     膠着状態は ピッ!と云った甲高いリーダーの警戒鳴きに
崩れる 一瞬で右の頂向け四頭が跳び尾根の裾裏向けニ頭が消え 勢子の接近に触発された
ものだった(2008年度シーズン最終日2009.2.28から)

この国に置き行われている現代狩猟
有り方は 長時間の追跡劇を得意と
する プロットウォーカーに代表された
ハウンド犬種による 当確野獣側の
根負け 或いは体温の上昇を収める
為に渓へ浸らんと谷向け落ちて来た
所で待ち構える 云わば”追い切り猟”
とでも言うのでしょうか 昔から山容の
条件によりある地方では良く行われて
居た手法で 此れは年々体力の衰え
著しき 高齢従事者多い猟界では現在
広く為されてる様です 又体力気力に
満ち溢れる若き猟師に好まれて居る
闘争本能激しき 格闘野力に長けた
犬種多頭数使役し 攻める範囲を絞り
誘導し犬により逃走を阻み噛み止る
”噛み止猟”に 範囲を絞らず犬任せ
”流し猟”等が 単独或いは極少人数に
よって為されています

何処に待ちを置くか?
其の中で基とも成るべく手法 多くの先人が行ってきた”巻き狩り”は”追い切り猟”との違いと
言えば 谷の要所で大きく囲み犬の動きを追うものに比べ 山を幾つかのブロック分けして
仕掛けを速く次への移行を容易にする事でしょうか 其の特徴として狩る山中に忍び入る
中待ちの配置を多用する事が挙げられます 野獣の生活圏である山野で如何に意図する
展開を得るか 思う成果を続けていってもふと疑問を感じる時が来る 野獣間ではどんな伝達
手法を要してるか判りませんが 伝えるべく個体間を遮断してもその事態を学習するとみえ
追われての動きに変化が現れ出して 囲みの裏をかく行動が見られると此方も其れに対応
奴等の発想の隙を探らねば成りません 其処まで何ら重要な位置づけに無かった場への無駄
かもしれない可能性には 貴重な人員割く事は避けたいのが本音で 自ら其の役を担い次や
其の先将来に向けての布石と成ります 鹿の性質として 一気に包囲網を裂き逃げ切らんと
落ちる牡に比べ 牝の群れは次への行動に慎重で 特に小さい個体を帯同するとその動きは
強くなり中々狩山から出ようとし無い事も多く 其れで忍び入る中待ちが必要と成って来ます
読み通りの結果を得 其の計算式が成り立つと 重要な箇所がまたひとつ増え 時々の重要度
吟味して消去法の選択と成る 確実絶対という言葉は生き物相手の世界には有りません

                                                  oozeki